学生時代は地盤の研究をしていました。就職先として当社を選んだのは、生活に欠かせない鉄道を手がけている点に興味を持ったから。鉄道は世の中に与えるインパクトも大きく、新しい駅ができれば街自体が変わります。人々の暮らしに密接に関わる場を創造し、社会の発展に貢献していける、そんな仕事に携わってみたいと思いました。
私は入社以来、プロジェクト設計部に所属しています。プロジェクト設計部は、鉄道の高架化や地下化といった大きなプロジェクトの計画段階から詳細設計までを手がける部署。また、計画部門と連携し、計画の実現性を高めるための提案もしています。
設計という仕事のやりがいは、自分で設計した構造物がそのまま現地にでき上がるということ。設計次第で、高い安全性や品質を実現しながら、建設コストを抑えることも可能です。なかでも鉄道は、列車の運行を止めずに夜間の限られた時間で施工しなければならないなど、制約が多い分、工夫のしがいがあります。
一般的な企業の場合、なかなか顧客の計画立案に関わるような業務に携わることは難しいと思いますが、当社は同じJR西日本グループの仕事が多く、計画立案段階から関わっていけます。最上流から下流工程まで、すべてに一貫して携わることができるのは、当社ならではの醍醐味といえます。
私が今携わっているうめきたエリアの東海道線支線地下化・新駅設置プロジェクトでは、その醍醐味を強く実感することができました。同プロジェクトは東海道線の支線を地下化すると同時に新駅を作るというもの。地上から線路がなくなることによって街の回遊性が高まるほか、新駅ができることでうめきた地区への利便性が向上すると共に関西国際空港へのアクセスも便利になります。
私は2014年に、このプロジェクトの詳細設計を担当しました。支線の地下化にあたっては困難もありました。用地の制約上、地下化した線路のルートが現在列車が走行している高架橋の橋脚にぶつかってしまうのです。そのため、もともとの橋脚を撤去し、橋桁を受け替える必要がありましたが、高架橋上には列車が走行しているので、列車の安全を確保しながらどのように橋桁を受け替えるかということが大きな課題でした。
そこで提案したのは、地下化のルートの外に橋脚を立て、そこから横に腕を伸ばして橋桁を支える(片持ち梁)方法です。しかしこの方法では片持ち梁がたわみ、橋桁が沈下してしまうため、たわみを抑える対策として、橋桁の反対側から橋脚を引っ張り、さらに橋脚の支持地盤を改良し地盤を強固なものにすることにより、構造全体の強度を高めることにしました。最終的にこのアイデアが採用され、現在は2023年春の地下化と新駅開業を目指して工事が進められています。
また、大阪駅の改良工事は私にとって大きな転機となりました。これは、私が入社してはじめて担当した案件です。ノースゲートビルディングの施工の際、列車が走行する高架橋のすぐ近くを20メートル掘削する工事があり、掘削によって周辺地盤や高架橋にどのような影響が出るのか、その検討を私が任されました。
大阪駅周辺は軟弱な粘土地盤。粘土は圧密・クリープ変形といった複雑な挙動を示す性質を持っています。構造物の重要度を踏まえ、大阪駅周辺の地盤の挙動を予測するには、通常設計で用いられる弾塑性理論だけでなく、粘土の複雑な挙動を表現できる弾粘塑性理論に基づいた検討も実施し、総合的な判断が必要とされました。そこで、私が大学のときに使っていた、粘塑性の地質の挙動を解析するプログラムを用いることにしました。解析の結果に大きな問題はありませんでしたが、これによってより高精度な安全性の確認ができました。
弾粘塑性の解析を実務に使った例は珍しく、私はこの経験をきっかけに、会社のサポートのもと、大学院の博士課程に入学。大規模掘削への弾粘塑性解析の活用をテーマに研究し、ドクターを取得することができました。
鉄道は人々の生活を支えるインフラの一つです。それを強く実感したのは、集中豪雨で3つの橋りょうが流されてしまった際に、災害復旧を行ったときのことでした。通常は計画、設計、施工という段取りで構造物を作り上げていきますが、このときは1日も早い復旧のため、同時進行で作業しました。
当社では最優先案件として多くの人員を投入し、JR西日本やゼネコンも、一体となって復旧を目指しました。その甲斐あって、調査、協議、設計を1年足らずで完了し、迅速な復旧につなげることができました。私たちの仕事が、いかに大きな意義を持つものであるかを実感した経験でした。
同時に強く感じたのは仕事への責任です。「責任を持つ」とは、すべて一人で抱えるという意味ではありません。必要に応じて周囲にアドバイスや協力を求めながら、間違いのない成果物を作るという姿勢こそが、本当の意味での責任感といえるでしょう。
だからこそ、素直であることが仕事においては大切です。わからないことは素直に認め、質問する姿勢が間違いをなくしますし、自らの成長にもつながります。これから入社される方も、遠慮なく質問し、成長していってほしいと思います。